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Posted by 滋賀咲くブログ at

2014年05月13日

が見ていないこ


我輩は凛太郎。今日はボクのトラウマを告白する。それは、かあちゃんの「あっ」。
かあちゃんがボクを見て「あっ」と言うと、ボクは反射的にワルイコトをしたに違いないと思ってしまう。最初の「あっ」が今でも尾をひいているのだ。それはボクがまだ満3ヶ月にもならないころのことだ。
そのころ、かあちゃんは、一生懸命ボクにシッコとウンコの躾をしていた。シーツの上ですると、猫なで声でものすごく誉めてくれた。「凛太郎おりこうやなぁ。賢いなぁ」って。
ボクはそのころはまだお利口も賢いも意味がわかっていなかった。床の上でシッコをすると、かあちゃんはスリッパで床を叩いて大きな音をたててから怒る。ボクはなぜ怒られるのかわからなかった。ボクが叩かれるわけではないし、大きな音にはビクっとするけどそれだけのこと。それも、かあちゃんの見ているところでシッコをした現行犯の時だけ。
かあちゃんの目につかないとこでの粗相はセーフ。かあちゃんは現行犯でしか怒らなかった。じいちゃんに現行犯でしか怒ってはいけないと教えられていたからだ。犬は、ニンゲンが怒ることがニンゲンのイヤがることだと察知して、何かの仕返しの時には、これみよがしに粗相をしてのけるので、現行犯以外は怒らないことと。でも、時々その教えを忘れて怒る時もあった。
ある日、かあちゃんがトイレに入った。おっウンチのニオイ。ボクはニオイには敏感だ。そのニオイのせいか、ボクももよおした。それで、かあちゃんが見ていないことを幸いにフローリングの床の上で始めた。そこにかあちゃんが出てきた。
かあちゃんは、ボクを見て「あっ」と叫んだ。声のする方を見た時、かあちゃんの目とボクの目があってしまった。ボクはどうしようもなかった。背中を弓なりに曲げ、腰をおろし、踏ん張り、今まさに出ようとしているものを止める術かない。かあちゃんはそんなボクの前に座り、じっとボクを見る。
そして、全部出てしまうのを待ってから、いきなり床を掌で叩いた。大きな音を出せるものが手元になかったのだ。かあちゃんは後先を考えないおバカを発揮し、手加減しないで思いっきり自分の手を床に打ちつけたものだから、ものすごおく痛かったみたいだ。腕に電気が走るほど痛かったらしい。

  

Posted by ゃぬのね at 16:48Comments(0)feeling

2014年05月13日

掲げて見せた


翌朝、ほとんど眠ることもないまま、つぐみは高原に着いた。これから働くことになる店はバス停からすぐの所にあった。店に入り店長に挨拶すると、すぐに寮に案内された。そこには寮の番人だという白髪の老人が入り口付近の広間でひとりキャンバスを広げて絵を描いていた。

店の店長は、「この人が寮の管理人、わからないことがあったら何でもこの人に聞いて」と告げると、足早に目の前のレストランへと戻っていった。

「こんにちは!お嬢さん。レストラン天空へようこそ!」老人の声は野太く、荒々しいけれど、不思議な魅力があった。

「はじめまして、わたし、つぐみって言います。竹下・・・ちがいました。神坂、つぐみです。」

「ふははは、苗字を間違える人っていうのは二種類ある。結婚したばかりの人、それから離婚したばかりの人だ。そして結婚したての人がこんなさびれた片田舎の洋食店へ住み込みのアルバイトで来たりはしないもんじゃ。ふはははは。お嬢さん、きっと辛いことが、沢山あったのだろうね。この後も、ひょっとしたら思い出して辛くなる日があるかもしれない。そんな時は遠慮なく、このアトリエにおいで、その時はわしがとっておきの、カフェオレを淹れてあげよう。」そう言うと老人は薄汚い年期の入ったマグカップをつぐみへ掲げて見せた。

「ありがとう・・・」

ここへ来てよかったのだ。

つぐみは久しぶりに、自分が微笑んでいることに気づいた。  

Posted by ゃぬのね at 16:40Comments(0)feeling